行政書士試験受験生 Sさん

 午前9時、行政書士試験大阪会場に到着。でも早すぎたのか誰もいない。仕方がないので芝生の植え込みに腰掛けて最後の見直しをする。失業してから半年、年齢のせいもあって再就職できず、妻に迷惑をかけながら行政書士試験を目指してきた。絶対に失敗は許されないと思うと朝から落ち着くことはできなかった。
 自販機で買ったジュースが3本目を迎えた頃、ようやく受付が始まる。若い受験者が多いが、なかには私くらいの人や、もっと年配の方もいる。早めに受付をすまして行政書士試験室に入る。どんな部屋なのかドキドキする。何しろ学校など数十年ぶりである。入ってみると大教室であった。小学校の教室のようなものを想像していた私としては少し圧倒されるが、そんなことは言ってられない。失敗したらここまで支えてくれた妻に申し訳が立たない。
 行政書士試験室にはいるとすぐに再び最後のチェックに入る。年齢のせいもあるのか、何度やっても忘れてしまうので最後の最後までチェックしたかった。しかし幸い周りにも真剣に見直しをしている人が多くいて、静かな環境だったので集中することができた。突破塾のホームページなどでは、去年までは最後の見直しをしている人はそれほどいないと書かれていたが、失業率の高さなどもあって真剣な人が増えているのではないか。それを思うと少しこわくなる。しかし、予備校の模試でもぎりぎりながら一応合格点をもらっていたので、そのことを思って心を落ち着ける。
 そして午後1時、いよいよ行政書士試験開始である。手足がふるえたまま問題用紙の1ページ目をめくる。第一問・・・見たことがない問題である。何の問題かもわからない。心臓の鼓動が聞こえそうなくらい高まる。仕方なく第二問へ。拡張解釈という言葉でようやく法学概論(基礎法学)であることに気付く。しかしよくわからない。第三問もよくわからない。この時点で半分パニックに陥る。不合格になることが頭をよぎる。そうこうしているうちに20分ほどがすぎてしまった。このままでは本当に落ちてしまう。絶対に落ちたくない。そこで私は深呼吸をして心を落ち着けた。こうなったらできそうな問題から一問一問拾っていくしかないと考え、できそうな問題を探す。ペラペラめくっているうちに、形式は変わっているができそうな問題もあることに気付き、だんだん落ち着いた。そして、最も易しそうな国語(漢字)の問題から解答を本格的に再開する。すでに行政書士試験開始から30分が経過しようとしていた。しかしこのリフレッシュは成功であった。国語は比較的易しく、順調にこなしていけた。さらに余勢を駆って社会科にもチャレンジする。先ほど全体を軽く見た時点で時事問題が多いことはわかっていたが、聞かれていることが少し細かい。不安もあるが自分の知っている知識を総動員して解答していく。私の感想としては普段から新聞を読んでいるかどうかで大きく差が付くような気がした。こうしてなんとか教養を乗り切った。このころには周りの人が数人、行政書士試験をあきらめて席を後にする。私も一つ間違えばそうなっていたかもしれない。いや、法令をやると席を立ちたくなるのではないかと再び少し不安がよぎった。
 そんな中、先ほど挫折した法令に戻る。心が落ち着いたせいで先ほどよりは少し易しく見える。これが行政書士試験の怖さなのだと痛感する。憲法から再開したが、知識はどれも知っているものだが、聞き方が抽象的な感じを受けた。やはり、突破塾通信講座でも強調されていたように、単に条文や判例の文言を覚えているかどうかではなく、わかっているかどうかを試しているのだろう。聞き方の抽象性にとまどいながらも、その後は全力を出せた。
 ただ、最後にまわした記述で再び動揺する。しかし通信講座であれだけ詳しく学んだのだからと開き直って、わかるところから埋める。全部はわからなかったが、ほぼ埋まった。
 そして、午後3時30分、行政書士試験終了。手応えはわからなかったが、できることはやったと感じる。

 以上が私が行政書士試験で思ったことである。行政書士試験の合格ラインまで行けたのは妻の愛情に応えなければという執念だったと思う。もし始まって30分くらいの時点での気分転換がなければと思うとゾッとする。もう行政書士試験は受けたくないと思った。いずれにしても46歳にしていい勉強をさせてもらった。やはり、現実の社会勉強だけでは得られないものもあるのだと感じさせられた。

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