行政書士試験受験生 Bさん(前編)

第一章 〜行政書士試験の準備〜

 行政書士試験の数週間前と違って、なぜかわくわくする。まるで子供の頃の遠足前夜のように。私は極度のあがり性で人ごみは特に苦手だ。行政書士試験当日のことを想像するだけで、緊張し平常ではいられなくなる。いくら勉強をし、実力があっても、行政書士試験で結果が出せない限り合格はできない。これが私の課題だった。

 私はプロのスポーツ選手を尊敬する。多くの観衆の前で、そして大きなプレッシャーを受けながらも結果を出す。実に素晴らしいと思う。その精神力に圧巻だ。行政書士試験対策として何か彼等から倣うことができないだろうか…。ある日の新聞記事に「イチロー」のコメントが載っていた。そこには「結果も大事だが、そのプロセスの方が重要。試合で結果を出すための準備を怠ったことはない」とあった。  この短いコメントを行政書士試験受験生の私は何度も読み返した。更にノートに書き写して机の正面に貼りつけた。

 彼は単に「準備を怠らない」のではなく「怠ったことはない」と、より強くコメントしている。私はそこに彼の自信のようなものを感じた。「結果を出すための準備」…これは(行政書士試験など)何かに挑む者は誰でも何かしらの準備はする。しかしその準備の程度が問題だ。彼の準備とは我々の想像をはるかに超える並々ならぬものではなかろうか…。それから私は行政書士試験の学習面と精神面において、行政書士試験に向けてできる限りの準備を進めることにした。

 行政書士試験の学習面については、勉強に終わりはなく、すべてを完璧にすることは不可能に近い。そこで「行政書士試験に合格するための学習」と言うふうに範囲を限定し、その範囲だけは確りやる。「基本が終わったら基本に帰る」これをを常に意識して基本中心の学習に徹した。私もそうだったが、行政書士試験の学習が進むにつれ基本をこばかにする人がいる。「それぐらい知ってるよ」「あたりまえでしょ」と。この「当たり前」のこと「バカバカしい」と思えるような基本的なことを、私は何度も繰り返し学習した。

 よく「基本なくして応用なし」と言われているように、行政書士試験でも基本は大変重要だ。そんなことは言われなくても分かっているつもりになって、ついつい新しい知識を詰め込みたがる。基礎の弱いビルは少し捻られると脆くもくずれてしまう。けっして知識が足りないわけではないが、一問一問に時間がかかりすぎる。限られた行政書士試験の時間の中で60問を解くためにも、やはり基礎は重要なのだ。そう、行政書士試験でも確りとした基礎があればいちいち迷わないし、やたらと時間を要しない。予め予定した行政書士試験の時間配分も基礎力があってはじめて意味がある。行政書士試験でも途中で迷ってばかりいては、そんな予定も大幅にずれ込み、そしてその焦りから決してよい結果には結びつかないものだ。そんな基礎の重要さを身をもって感じさせられたのが昨年の行政書士試験だった。

 精神面については、あがり性でない人にとってはばかばかしい話かも知れないが、私は行政書士試験会場の正門の写真を撮ってきて、それを見ながら行政書士試験当日のことを想像した。これをイメージトレーニングと呼ぶにはおこがましいが、とにかく少しでも行政書士試験場の雰囲気に慣れておきたかった。そしてこれを行政書士試験まで毎日続けた。それでも人ごみは苦手だしあがり性には変わりない。行政書士試験当日は鎮静剤をもって行くことにした。

 その他、私は行政書士試験にむけた普段の学習時間にも配慮した。これまで夜から朝方までに集中していた行政書士試験の学習時間を改めて、早朝から夕方までにした。夜は一切行政書士試験の勉強をせず、さっさと寝るようにしたのだ。行政書士試験が午後から始まる以上、日頃から行政書士試験の時間帯に頭がフル回転できる状態にしておかなければならない。確かに深夜の学習は集中できるしよくはかどるが、日中ぼんやりとしていたのでは、意味がないと考えた。私はこれで正解だったと自負している。

 行政書士試験前日、私がリュックに詰め込んだ物は「行政書士試験受験票」「筆記用具」「財布」「タオル」「ティッシュ」「ガム」「たばこ」「傘」「鎮静剤」「ニコチンガム」「目薬」「ミネラルウォーター」「お茶」「コーヒー」「バナナ」「行政書士試験六法」である。行政書士試験の教材らしいものは「六法」だけだった。もうやるだけの対策はやったので、行政書士試験直前になって、がたがたやる必要もない。そんな気分だった。昨年の行政書士試験ではやたらと、行政書士試験の参考書類をかばん一杯に詰め込んで持って行ったが重たいだけで何の役にもたたなかった。更にのどは渇くし、お腹は減るし、その辺の準備が全くできていなかった。行政書士試験場の席に着いてからではもうどうしょうもない。今年はそんな不備もなく、風呂にゆっくりつかって、10時前にはさっさと寝た。


第二章 〜行政書士試験当日、戦う〜

 10月28日、行政書士試験当日。私はいつもより早く目が覚めた。4時半だった。不安がないわけでもないし、相変わらず人ごみは苦手だが、それ以上に行政書士試験会場へ行って行政書士試験を受けることが楽しみだった。目覚まし代りに行政書士試験の記述用に作成した穴空条文を読んだ。すらすら読める。この中に情報公開法の第一条も入っていた。昨年の行政書士試験で出題された行政指導の定義もなぜかその条文だけを机の正面に貼っていた。運がいいのか何か分からないが、そんなこともあった。それから、ちょっと恥ずかしいが、行政書士試験の予備校の講師の先生方の写真をパンフレットから切り抜いて、体に貼った。一人で戦うより大勢の方が心強い。そう思って貼ってみた。できることは何でもやる。恥も糞もない。

 そうこうしている間に友人が迎えに来た。彼に行政書士試験当日の送迎を前もって頼んでいたのだ。それは、私の自宅から行政書士試験会場までは車で3時間近くかかってしまい、さらにパーキングを探してそこから行政書士試験会場まで歩かなければならない。それだけで疲れしまうからだ。私の無理を快く引受けてくれた彼には本当に感謝している。とても助かった。荷物を再チェックして朝刊を片手にジャージ姿のまま自宅を出た。普段、外出するときは決してジャージではないが、自宅で行政書士試験の学習しているときはいつも、ジャージなので、そのまま、いつもの通りの感じで行政書士試験を受験したかった。

 行政書士試験会場までの道中、車内では、友人との会話が続きとてもリラックスした雰囲気で過ごすことができた。しかし行政書士試験会場が近づくにつれ緊張感が増してきた。仕方なく最初の鎮静剤を飲んで気分を落ち着かせた。そして以前、何かの番組で元巨人軍の江川卓が言っていた上原投手へのアドバイスを思い出した。「優しいだけでは勝率を伸ばすことはできない。ちょっと言い方は悪いが、人を蹴落としてでも這い上がるぐらいの気持ちが必要だ」と。私はこの江川さんの言葉を聞いたとき、行政書士試験を勝ち上がるための心得というか気の持ち方というようなものに少し触れることができたような気がした。

 多くの行政書士試験受験者の中にあって、一人孤独に戦う受験戦争では、自分自身はもとより、他人にも打ち勝たなければならない。江川さんが言うように、気持ちの面で、始めから人に負けていたのでは、話にならない。そう考えている内にだんだんと燃えてきた。行政書士試験会場の人ごみが苦手だとか言っている場合ではないのである。こうして少しずつ図太くなっていく自分を自覚しながら行政書士試験会場へ到着した。立命館大学だ。

 友人と帰りの待ち合わせの時刻と場所を確認し、行政書士試験場の正門へ向かった。昨年は正門のところに、行政書士試験の予備校のパンフレット配りの人がいたのに、今年はだれも居ない。この正門は私が毎日自宅でイメージしてきた正門だ。しかもここは別の試験でも来たことがある。はじめてではない。もうここでは緊張もない。近くで構内の案内図をもらって、実際の行政書士試験会場へ向かった。10分ぐらい歩いたら、係員の方々が行政書士試験の設営の準備をしているのが見えた。その内の一人に挨拶をして、場所の確認をした。辺りを見わたすと行政書士試験受験者らしい人はだれも居ない。まだ9時半過ぎだった。

 私は近くのベンチに荷物を置いて、体操を始めた。恥ずかしいという気持ちは捨てて、なるべく普段通りの自分でいられるように心がけた。体操の後は水を飲んで一服しながら、行政書士試験の設営の準備を眺めていた。1時間もすると少しずつ人が増えてきた。だれも熱心に行政書士試験のテキストやら読んでいる。私も触発されて「行政書士試験六法」を読むことにした。そして自治法を最初から読み始めた。

 そうして一通り読み終えて、ふと辺りを見渡すと、すごい大勢の行政書士試験受験者が集まっていた。昨年の行政書士試験とは比べ物にならないくらいの人数だ。私の横にも前にも後ろにも辺り一面行政書士試験受験生だらけになっていた。私の嫌いな人ごみだ。しかし、そのときの私は今では信じられないくらい図太い精神で特に苦にはしなかった。それより腹が減った。ここで問題発生。私が行政書士試験に持ってきた食べ物は「バナナ」しかない。ジャージ姿の人も居ないが、「バナナ」を食っている人など何処にも居ない。さすがに恥ずかしい。私が行政書士試験のために準備してきた中で、唯一の失敗はこの「バナナ」だったと思う。お握りにしておけばよかった。


第三章 〜行政書士試験本番は練習のつもりで〜

 行政書士試験会場入室の時間になったので、ようやく建物の中に入る。ぞろぞろと皆中に入っていく。私はすぐにトイレにいった。それから自分の席を探して着席した。すごい広い教室だった。私は後ろの方の席だったので正面の黒板は遥か遠くに見える。空席がほぼ埋ったころ、目薬を注す。行政書士試験開始30分前から説明が始まる。水を飲みながら行政書士試験の説明を聞いた。行政書士試験開始15分前に2回目の鎮静剤を飲んだ。机の上のものを片付けて行政書士試験の解答用紙と問題の配布を待つ。少し暑くなってきたので上着を脱いで、いつものように靴を脱いで椅子の上で胡座をかいた。行政書士試験開始5分前、ニコチンガムを噛む。配られた行政書士試験の解答用紙に必要事項を記入し行政書士試験開始を待つ。

 私は行政書士試験の模擬試験を受ける際にいつも心がけていた言葉がある。それは「練習は本番のつもりでやれ。本番は練習のつもりでやれ。」と言うものだ。今日はいよいよ行政書士試験本番だが、特別なことをする必要はない。練習のつもりでやるだけだ。昨年の行政書士試験は本番だからと思って随分と丁寧に一問一問を解いたおかげで時間切れになった。「今日は本番だが私にとっては練習なのだ」と、言い聞かせた。

 1時、行政書士試験開始。早速解答にとりかかる。が、問題の紙質が昨年の行政書士試験と比べて薄っぺらい。経費削減か。まあいいか。私は五肢択一の場合、3から読むようにしている。そして4、5と順次下へ読んでいき、そこで正解の肢が見つかれば残りの1と2は流し読み程度にしている。したがって行政書士試験は実質は三択だと思って問題を解いている。
それでも正解らしいものがなければ、1か2の二択だからそうそう間違えることはない。行政書士試験本番の今日も、こんな感じで進めてみる。

【試験問題1】法的格言の今日的意味:例により3から読む。なんとなく正しそうだがはっきりしない。4は誤り。5がどうも正しい。一応、1と2を読んでみるがどちらも誤り。3をもう一度読んでみるが「社会的・反社会的の別はなく」のところが気に入らない。結局、5で決まり。

【試験問題2】法の効力:個数問題なので「ア」から順に読んでみる。特に悩む問題ではない。4で決まり。

【試験問題3】また個数問題。「欠乏から免れる権利」に対応するもの:22条で悩む。・・・・・経済的自由権だから関係ありそうかな。とりあえず2つで2で決まり。

【試験問題4】営業の自由を制限しているとはいえないもの:例により3から順に読むがどれも制限しているように思える。残りの1と2も読んでみるがどれも私には、はっきりとした答えが出せない。悩んだ結果この問題はパスにした。

 この時点で行政書士試験開始から12〜13分経過していた。まずい。悩んで考えていては昨年と同じだ。知らない問題は知らないで仕方がない。できる問題だけ確りとっていこう。こう考えて先へ進む。

【試験問題5】判例:例により3から5まで読むが正解なし。2を読んでも正解なし。残るは1。これで決まり。

【試験問題6】身分保証:例により3から読む。これで決まり。

【試験問題7】憲法改正:例により3から5まで読むが正解なし。2を読んでも正解なし。残るは1。これで決まり。

【試験問題8】行政組織:例により3から読む。これで決まり。

【試験問題9】情報公開法:自信満々、5で決まり。

【試験問題10】弁済供託:例により3から5まで読むがはっきり分からない。2を読んでみる。たしか供託金払戻請求の却下が行政処分にあたり取消訴訟の対象になるというのを勉強したことがある。これかな。2で決まり。

【試験問題11】抗告訴訟でないもの:みれば4で決まり。

【試験問題12】手続法の適用除外:ここはあまりやってない。やなところが出た。個数問題なので「ア」から順に読んでみる。「ア」「イ」「ウ」ははっきり除外。「エ」「オ」がよく分からない。今度は迷っても止まらない。いつまでも時間をかけてはいけない。自分の知ってる分だけで3つ。3にしておく。

【試験問題13】義務的手続でないもの:これは散々やったところだ。3で決まり。

【試験問題14】行政指導:例により3から5まで読む。5が明らかに誤り。これで決まり。

【試験問題15】審査請求:例により3から5まで読む。5が明らかに誤り。これで決まり。

【試験問題16】教示:例により3から5まで読むが正解なし。2を読んでみる。これだ。

【試験問題17】住民投票:自治法は苦手だから、1からじっくりやる。はじめて制定したのは巻町ではない。2、すべて直接請求が誤り。3、県において〜というところが引っかかる。保留。4、なんとなく新聞の記事で読んだような気がする。これも保留。5、法的拘束力はない。3と4で迷ってしまう。しかしここでも止まってはいけない。結局4にした。

【試験問題18】長と議会の関係:1、正しい。2、正しいような気がする。3、これは明らかに誤っている。これで決まり。

【試験問題19】係争処理:1、誤り。2、これも誤り。3、これはよく分からない。4、これもよく知らない。最後5、これは正しい。5にしておく。

【試験問題20】地縁団体:1から順に読んでみる。消去法で3が残った。これだ。

【試験問題21】申告納税方式:例により3から5まで読む。5が正しそうだ。1と2を一応読んでみるがどうも誤り。5で決まり。

【試験問題22】消費税:例により3から5まで読む。3と5は誤り。4がよく分からない。2を読んでみる。ここでミス。帰宅後気が付いたが「輸出品」を「輸入品」と勘違いしていたのでなんとなく誤りと判断した。1は誤り。結局よく分からない4にした。

【試験問題23】行政書士法:個数問題なので「ア」から順に読む。どうってことのない問題だったが、恥ずかしいことに「オ」が分からなかった。実に痛い失点。

【試験問題24】登録:例により3から読む。4で決まり。

【試験問題25】行政書士法:例により3から読むが特殊法人がどうだったかはっきりしない。4は誤り。5、これが正しそうだ。これで決まり。

【試験問題26】罰則:罰則は全部覚えているから楽勝と思った。ぱっとみて5にマークした。しかしよく見ると「行政書士が〜」というところが気になる。しかしここでも止まってはいけない。さっさと進めることにした。

 問4までもたもたしていたが、ここまでえらいスピードで来てしまった。まだ1時半過ぎだった。民法と読解に時間をかけるつもりで時間配分を決めているが、予定より20分以上早い。練習のつもりとは言え大雑把にやりすぎたと少し反省した。次は民法。じっくりやる。

【試験問題27】意思表示:何だかよく分からない問題だ。感じでやってみる。「ア」は正しそう。「イ」なんとなく違う。「ウ」さっぱり知らない。「エ」なんとなく違う。「オ」分からない。これで個数問題だからきつい。2にしておく。

【試験問題28】法定地上権:例により3から読んでみる。正しそうだ。一応他の肢も読んでみるが、3で決まり。

【試験問題29】連帯保証:これも例により3から読んでみる。正しそうだ。一応他の肢も読んでみるが、3で決まり。

【試験問題30】遺言:こんなところは勉強していない。とりあえず3から読んでみる。これはどう見ても違う。4、正しそうだ。これにしておく。

【試験問題31】戸籍法:例により3から5まで読む。5が明らかに正しい。これで決まり。

【試験問題32】住基法:個数問題なので「ア」から順に読む。「〜作成〜」が少し気になるが、ここでも止まってはいけない。考え込まずとりあえず○にした。残りの「イ」から「オ」は特に難しくはない。正しいものは4つで4にした。

【試験問題33】商業使用人・代理商:「〜営業使用人〜」だれだこれは。まあいい、先に進める。例により3から5まで読む。4がどうも誤りだ。一応、2と1も読むが4で決まり。

【試験問題34】会社の資本:例により3から5まで読む。4がどうも正しそうだこれで決まり。

【試験問題35】労働基準法:例により3から5まで読むが5が分からない。仕方なく1と2も読んでみる。2・3・4は明らかに誤り。残り1と5で迷ってしまった。労働法を落とすのは非常に痛い。情けないことに5にしてしまった。

これで法令択一終了。どうも私は2つの肢を決めかねたときは下段の肢を選んでいる
ようだ。特に意識していなかったが、今思えばずっとそうしていたのかもしれない。
時間はまだ2時にもなっていない。記述をゆっくりやろうと思った。

【試験問題36】憲法:2行読んで答えは出た。拍子抜け。

【試験問題37】行政法:また出たパズル問題。「ア」「ウ」「エ」はすぐに答えがでた。
「イ」は法定受託義務で是正の要求は変だし…指示かな。これで用語になりそうだ。

【試験問題38】行政法:これも即、答えはでた。

【試験問題39】行政書士法:Aに入る語がでてこない。でももう3問できてるからよしとした。
あまり考え込まず「一般業務」とする。Bは問題なく即答。

【試験問題40】民法:これも即答。


後編へ続く

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