「行政法」入門ガイダンス

行政書士試験のための「行政法」入門ガイダンス

 行政書士試験において、行政法は最もキーとなる科目です。行政書士試験択一式での出題数は最も多いですし、多肢選択式と記述式でも出題されます。行政法の出来不出来は、行政書士試験の合否に直結するといえます。また、地方自治法や情報公開法、(一般知識で出題される)個人情報保護法などの基礎にもなりますので、行政法をきちんと理解していないと、これらの科目にも影響します。
 このように、行政法は、行政書士試験の最重要科目なのですが、具体的な理解やイメージをおろそかにしたまま、表面的な知識の暗記に走る人も少なくありません。しかし、行政法においては、行政○○という似たような用語が多数出てきますから、具体的にどのような話なのか、具体例をイメージしながら学ばなければ、混乱して伸び悩んでしまいます。
 行政法は、実は「きれいで、わかりやすい体系」になっていますので、似たような「行政○○」がそれぞれ何のためのどのような制度なのかを、体系的に位置づけながら学んでいけば、必ず得意科目になります。
 ここでは、体系の大枠を身につけていただきます。

一、行政法とは

 行政法とは、行政の①組織、②作用、③統制に関する法です。
 つまり、行政は①誰が行うのか(行政組織法)、②何を行うのか(行政作用法)、③間違いがあったときにどうやって国民を救済するか(行政救済法)、からなる法です。この①~③を「行政法の三本柱」ということもあります。それぞれの内容については、後述「三、行政法の体系」で説明します。
 ただ、そうは言っても、なかなかイメージがつかみにくいのが行政法です。その一つの原因は、「行政法には条文がない!」ことがあげられますが、もう一つの原因としては、「行政」とは何なのかがわかりにくいことが挙げられます。
 そこで、まず「行政」とは何かを見ておきましょう。

二、「行政」とは

 三権分立のうち「立法」と「司法」はイメージしやすいと思います。立法は法律を作ることで、国会の役割です。司法は裁判をすることで、裁判所の役割です。
 では、「行政」はどうでしょう。これは定義が難しいのですが、わかりやすく定義すると「法を執行すること」となります。内閣以下の行政機関がその役割を負います。
 この「法を執行すること」とはどういうことなのかを、税金の徴収を例に見ていきましょう。

 最も身近な行政活動として、税金(所得税)の徴収を考えてみましょう。
 所得税については、所得税法という法律があります。これを制定するのは国会ですが、これを執行するとはどういうことでしょうか。

 具体的には、
 ①所得税法の範囲内で税金関係の細かいルールを制定し、
 ②それに基づいて税務署長が所得税の賦課命令(税金払えという命令)を下し、
 ③もしその私人が税金を支払わなければ、強制徴収をする。

 以上のような流れで、法律(ここでは所得税法)を執行していくのです。
 つまり、「行政=法を執行する」とは、法律についての細かいルールを作り、それを個々の個人にあてはめていくこと、となるわけです。

 まとめると、「行政=法を執行する」とは、次のような活動を指すことになります。そして、これを「行政の過程」と呼びます。

《行政の過程》

 ①法律に基づいて細かいルールを作る(行政立法

 ②個々の国民に処分を下す(行政行為

 ③国民が義務を果たさないときには強制執行をする(行政強制)。

 「行政」のイメージ、持てましたか?前述したように、行政法はイメージを持てるかどうかがその後の成績の伸びを大きく左右します。わけが分からないまま覚えてもすぐ忘れてしまいます。ですから、こうしたイメージはしっかり持って、常に具体例を意識しながら学習を進めましょう。

三、行政法の体系

 前述したように、行政法は、きれいに整理された体系となっています。「行政法」という名前の法令(条文)はありませんが、多くの行政法令に共通するルールを学者さんが体系立てて整理しているためです。
 具体的には、「一、行政法とは」で述べた、次の三本柱からなっています。

《行政法の体系》

 ①「行政は誰が行うのか」についてのルール(行政組織法

 ②「行政は何を行うのか」についてのルール(行政作用法

 ③「行政活動に間違いがあったときに、どのように国民を救済するか」についてのルール(行政救済法)。

 この三本柱は、行政法の最も大きなフレーム(枠組み)となりますから、学習するときにも、常に意識して頭の中を整理していきましょう。この中に、細かい知識を整理して入れていくことになります。
 次に、これらの柱をそれぞれ概観していきましょう。

1.行政組織法~行政は誰が行うのか

 行政は、行政主体(国、地方公共団体)が行います。たとえば、税金は国や地方公共団体が徴収するといった具合です。
 ただ、行政主体は法人なので、実際には、生身の人間が行政機関として活動することになります。行政機関のなかで最も重要なのは行政庁です。行政庁は、行政主体の意思を決定し、外部に表示する機関です。例えば、大臣や知事等です。つまり、知事が都道府県の意思を決定し、表示するのです。例えば、Aさんに対し、〇〇税の支払い命令を下すことを決定し、表示するわけです。
 行政庁は原則として自分で権限を行使しますが、他の機関に代行させることもできます。たとえば、知事が副知事に税金に関する権限を任せる等です。この代行には、権限をそっくり移してしまう委任と、権限を移すわけではなく、とりあえず任せる代理があります。

2.行政作用法~行政は何を行うのか

 前述した「行政とは」のところで見たように、行政は、行政立法や行政行為をすることになりますが、なかでも最重要なのが行政行為です。
 行政行為とは、行政庁がその一方的判断に基づき国民の権利義務等につき具体的に決定する行為をいいます。具体的には、税金の賦課命令や、営業の許可、違法建築物の除去命令等々です。つまり、税金の賦課命令(支払い命令)のように、国や地方公共団体が支払額などを一方的に決めて、「あなたは税金を10万円払いなさい」などと命令するような行為のことです。なお、行政行為は、行政処分などといわれることも多いです。

・行政強制
 行政行為について国民の義務の不履行があった場合(たとえば、国民が税金を払わないとか、違法建築を除去しない場合など)には、行政強制の話となります。税金を払わない場合には強制徴収、違法建築を壊さない場合には行政が代わりに壊す代執行の手続に入ることとなります。

・行政手続法
 行政行為がなされるまでの事前手続については行政手続法が定めています。行政行為は、国民に不利益を及ぼすことも多いですから、行政行為がなされる前にも、きっちりした手続を踏ませることで、国民の権利を守っていこうという趣旨の法律です。
 例えば、Aさんが飲食店の営業の許可を役所に申請した場合に、いつまでも許可が出ずに放置されたり、理由もなく不許可処分が出されてしまうと、Aさんは営業を始められず、大きな不利益を受けます。そこで、どういう場合に許可になるのかという基準(審査基準といいます)を定めなければならないとか、許可が出るまでにかかる一般的な期間(標準処理期間といいます)を公開しなければならないといったことを定めたものです。
 従来から、行政行為に間違いがあった場合の行政救済法(後述)については法律が整備されていたのですが、行政行為がなされる前の手続について一般的に定めた法律がありませんでした。そこで、平成6年に制定されたのが行政手続法です。

※その他の行政作用
 行政立法~行政行為を下すための細かいルールづくり。具体的には、内閣の作る政令、各省のつくる省令などがあります。

 行政計画~行政がつくる行政活動についての計画。例えば都市計画や、市街地再開発計画など。

 これらはいずれも、個人の具体的な権利義務を決定するものではない点で行政行為と異なります。つまり、これらは抽象的にルールや計画を決定するだけなのに対し、行政行為は、国民ひとりひとりに具体的な決定を下すものです。このように、行政行為はひとりひとりの国民の人権と直接かかわるものなので、多くの問題をはらんでおり、試験でもよく問われることになります。

3.行政救済法~行政行為などに間違いがあったときどのように国民を救済するか。

 まず、行政行為に間違いがあった場合とはどのような場合でしょうか。これは例えば、税金を払わなくてよい人に対し、支払い命令をしてしまった場合や、違法建築でない建物に対して、除去命令を出してしまった場合などです。このような間違った行政行為のことを瑕疵ある行政行為と呼びます。
 瑕疵ある行政行為がなされた場合は、その行政行為の対象となっている人を救済しなければなりません。そのための方法としては、大きく分けて2種類の方法があります。
 第一は、瑕疵ある行政行為を取り消すことで国民を救済するという方法です。行政行為が取り消されるとその行政行為ははじめから無かったことになり、国民が救済されるのです。たとえば、税金を払わなくてよい人に対して税金支払い命令が出された場合、その命令(行政行為)が取り消されれば、税金を払わなくてもよくなり、救済されるわけです。
 第二は、金銭賠償により国民を救済する方法です。これは例えば、違法建築でない家を行政庁が間違えて壊してしまった場合、取り消しても、もとの家が戻ってくるわけではないので、金銭の賠償によって家を壊された人を救済するわけです。
 以下、この2種類の方法について概観しておきましょう。

・行政行為などの取消等を求める制度
 瑕疵ある行政行為の取消を求める制度は、どこに取消を求めるかで、さらに2つに分かれます。
 まず裁判所に取消等を求めるのが行政事件訴訟です。それに対し、行政庁自身に取消を求めるのが行政不服申立てです。
 そして、国民がこのうちどちらを選ぶかは原則として自由であるという自由選択主義がとられています。つまり、公正できちんとした解決を望む人は訴訟に訴えればよいですし、簡単に済ませたい人は不服申立てをすればよいということになります。

・国や地方公共団体に金銭賠償を求める制度
 金銭賠償については、国家賠償法が定めています。前述した税金のミスや、建物除去命令のミスなどは、いずれも公務員に間違いがあった場合なので国家賠償法1条による損害賠償請求の問題となります。1条は公務員の公権力の行使から生じた損害の賠償の場面なので「公権力責任」といわれます。
 これに対し、国家が造った道路や橋が壊れて国民が損害を被ったような場合は2条の問題となります。2条は、国や地方公共団体が造った営造物から生じた損害の賠償なので、「営造物責任」といわれます。

 以上、行政法のアウトラインを見てきました。前述したように、似たような用語が多数出てくる行政法は、特に全体構造を頭に入れておくことが重要です。最初のうちは、必ず自分が今、全体構造のなかのどこを勉強しているのかを意識して学習を進めていきましょう。だいたいのイメージさえつかめれば行政法は容易な科目です。行政書士試験の科目のなかでも特に出題数が多いですから、是非得意科目にしてください。