行政書士試験基本ガイダンス(主要3科目)

 行政書士試験の合格対策としては、まず、憲法・民法・行政法という主要3科目をマスターすることが重要です。これらの科目の基礎をしっかり理解して使いこなせるようになっていることが、行政書士試験対策の土台となります。こうした土台をしっかりさせた上で、よりレベルの高い事項や他の科目の学習を進めていきましょう。
 行政書士試験突破塾の通信講座では、出題可能性のある理論や新判例への対応など、業界トップクラスのレベルの高い講義を行っていますが、その一方で、基本原理の学習にも非常に力を入れています。土台をしっかりさせないと、レベルの高い事項を学んでも実際の行政書士試験では使えないからです。
 このページでは、行政書士試験の基礎となる各科目のガイダンスを行っています。各法令が一体何を定めているのか、基本原理は何か等、これを見て各科目の基礎を概観してみてください。初学者の方はもちろん、すでに勉強をはじめていらっしゃる方も是非参考にしてみてください。

行政書士試験のための「民法基本ガイダンス」

 行政書士試験において、民法は行政法と並んでキーとなる科目です。行政書士試験択一式での民法の出題数は行政法に次ぐものですが、記述式では例年2問出題されます。ですから、民法の出来不出来が行政書士試験の合否に大きな影響を与えます。また、民法は商法の基礎ともなりますから、民法を十分マスターしていないと商法の行政書士試験対策にも影響することになります。 このように、民法は行政書士試験の対策上極めて重要な科目なのですが、基礎理論をおろそかにしたまま、表面的な知識の暗記に走る人も少なくありません。しかし、これでは行政書士試験の合格レベルに到達するのは難しいです。基礎から応用までのしっかりした理解を身につけることが行政書士試験民法の最も効果的な対策となります。ここではごく基本の理解を身につけていただきます。

一、民法とは

 民法は私人対私人の関係(特に取引関係)について定めた法律です。なかでも中心になるのは売買や賃貸借といった契約についてです。また、結婚や離婚、相続について定めた親族相続という部分もあります。

二、民法でよくある話

 民法は、要するに契約など一定の関係に立った者同士の利益を調整する法律です。そこでは、「善意の第三者保護」(取引の安全)という考え方がよくでてきますのでこれについてお話しておきましょう。 

事例 : AさんのテレビをBさんが盗み出し、Cさんに売り払った場合、Cさんは所有権を取得できるでしょうか?

 テレビのもともとの所有者はAさんですから、Bさんはテレビについては無権利者です。だとすれば、無権利者からテレビを買ったCさんも所有権を取得できないのが原則です。
 しかし、常にこの結論を貫くことはCさんに酷ですね。
 そこで、Cさんが善意・無過失Bが無権利者であるという事情を知らず、また、知らないことにつき落ち度がないこと〜普通の意味の「善意」とは異なることに注意しましょう)であればCさんにテレビの所有権の取得を認めることにしました(192条・即時取得)。このように善意の第三者を保護する考え方を取引安全を図るといいます。
 つまり、@Cが善意・無過失であれば、Cが所有権取得します。
 これに対して、ACが悪意または有過失(事情を知っているかまたは知らないことに落ち度があること)であればCは所有権を取得できず、テレビはAさんの所有のままです。
 このように法律は、AさんとCさんの利益を調整しているのです。
 なお、この即時取得は動産(不動産[土地建物]以外のもの)についてしか認められていません。不動産については、虚偽表示の場合の94条2項や、詐欺の場合の96条3項など、特別の事情のある場合のみ、第三者が保護されることになります。

三、民法の全体構造

 民法は、@総則(1条〜)、A物権(175条〜)、B債権(399条〜)、C親族相続(725条〜1044条)、に分けられます。行政書士試験においても、これら各分野からバランス良く出題されます。
 @の総則は取引行為全般に共通する規則をまとめた部分、Aの物権は所有権などの物に対する権利についての部分、Bの債権は「物をこちらへよこせ」とか「代金を払え」などの人に対する権利についての部分、Cの親族相続は結婚や離婚、相続などについての部分ということになります。
 ただ、@〜Bは、バラバラのことを定めているのではなく、契約などについてそれぞれの観点から分析して別々に規定しているだけなのです。

事例 : AさんがBさんに土地を売ったという売買契約について、民法のどの部分で何が規定されているのかを考えてみましょう。

 まず、契約が成立するためには、Aさんの「土地を売りましょう」という意思表示と、Bさんの「土地を買いましょう」という意思表示の合致が必要です。意思表示とはその名の通り、(「売ろう」とか「買おう」という)意思の表示のことです。そしてこの意思表示については、総則で規定されています。
 契約が成立すると、土地の所有権がBさんに移転します。また、代金が支払われると代金の所有権も移転します。このような所有権の移転(これを物権変動と呼んだりします)については、物権編で規定されています。
 また、契約が成立すると、BさんからAさんに対して「土地をこちらへよこせ」とか、Aさんから「代金払え」といった請求が可能となります。このような人に対する権利を債権と呼び、債権編で規定されています。
 このようにひとつの契約を細かく分析してそれぞれの観点から規定したのが民法なのです。
 では次に、総則、物権、債権に分けてお話をしましょう。

1.総則について

 総則は、取引関係に共通する規則をまとめた部分なので、様々な話が「ゴッタ煮」的にでてくるところです。
 行政書士試験の対策として重要なのは、能力、意思表示、代理、時効あたりでしょう。今回は行政書士試験のための「基本ガイダンス」ということで、意思表示のみ見ておきましょう。ここは行政書士試験における頻出ポイントです。行政書士試験のレベルは上がっていますが、それでもやはりここはよく出題される分野となっていますので試験対策としては基礎から応用までしっかり押さえるべきところです。
 意思表示は、前述したように「売ろう」とか「買おう」という意思の表示です。通常は「その土地を売ろう」という意思で、「その土地を売ります」という表示をするので問題はありません。問題は、意思表示に不備がある場合です。民法は、意思表示に不備がある場合について、意思の不存在瑕疵(かし)ある意思表示に分けて、詳しい規定をおいています。

@意思の不存在について
 まず、意思の不存在とは、意思表示のうちの意思の部分が欠けている場合のことです。たとえば、T.その土地を売る意思がないのに「売ります」と表示している場合、つまりウソをついている場合(心裡留保・93条)、U.AさんとBさんとの間で仮装売買を行った場合(通謀虚偽表示・94条)、V.乙土地を売るつもりで勘違いをして「甲土地を売る」と言ってしまった場合(錯誤・95条)の3種類があります。
 これらの場合、意思表示のうちの意思が欠けているわけですから、意思表示は無効となり、契約も無効になるのが原則です。
 ただ、前述した取引安全の観点から、通謀虚偽表示の場合の善意の第三者は、所有権を取得できるとされています(94条2項)。

A瑕疵ある意思表示について
 次に瑕疵ある意思表示とは、少しおかしい(これを瑕疵と言います)意思表示、具体的には詐欺強迫(96条)によってなされた意思表示のことです。これらの場合、騙されたり、脅されたりしたにせよ、この土地を売るという意思も表示もあるのです。その点で、前述の意思の不存在と異なります。つまり、意思も表示もあるのだけれど、その原因が詐欺・強迫によるので、「ちょっとおかしい意思表示」とされるわけです。
 そして、瑕疵ある意思表示は、意思の不存在と異なり、少しおかしいだけなので、無効ではなく、取り消しうる行為とされます。つまり、一応有効なのですが、詐欺・強迫された人から取消がありますと最初から無効とされることになります。一応有効とされる点が、無効の場合との違いです。
 なお、この場合も詐欺の場合、取引安全の観点から善意の第三者を保護する規定がおかれています(96条3項)。

 以上みてきたように、@意思の不存在やA意思表示の瑕疵があれば、契約は無効や取り消しうる行為になるのですが、こうした事情がなければ、意思表示が合致した時点で契約成立となります。

2.物権について

 このように売買契約が成立した場合、物の所有権が移転することになります。この所有権の移転などの物権についてみておくことにしましょう。
 ここで特に大切なのは、登記との関係です。登記とは、不動産の登録制度のことで、所有権など不動産についている権利を公示(みんなに示すこと)するものです。
 そして、登記には対抗要件という重要な働きがあります。「対抗」とは、主張と言う意味です。つまり、自分の所有権を主張するためには登記が必要な場合があるということなのです。
 では、どのような場合に登記がなければ所有権を対抗できないのでしょうか。この点は、行政書士試験対策としては基本中の基本になりますから、しっかり理解しておく必要があります。
 この点、二重譲渡のような関係に立つ場合に登記が必要と解されています(177条・判例)。二重譲渡とは、例えばAさんがひとつの土地をBさんとCさんに二重に売ってしまうような場合のことです。このような場合に、BさんがCさんに所有権を主張するには登記が必要だ、と言うのです。ということは、結局BとCのどちらが所有権を取得できるかは、登記を先に備えるかどうかにかかっているというわけです。
 これに対してA→B→Cと土地が売られたような場合、Cは登記がなくてもAに所有権が主張できるのです。
 このように、登記は二重譲渡の場合の譲受人の優劣を決するという大切な役割を演じています。
 さらに判例は、正確には二重譲渡ではない場合でも、二重譲渡と似ている場合には登記で決するとします(「取消と登記」・「解除と登記」・「遺産分割と登記」などの問題点。これらは行政書士試験対策として非常に重要ですが、今回は基本ガイダンスですので割愛いたします)。

3.担保物権について

 次に、物権のなかでも担保物権についてお話ししておきましょう。担保物権とは、その名の通り債権(ex借金)の担保として物につけられる物権です。例えば、BさんがAさんから100万円の借金をし、Bさんの持っている土地に抵当権(担保物権の代表的なもの)を設定した場合、Bがもし借金を払えなかったときには、その土地を競売(裁判所が行うセリ)にかけ、落札した人が支払った代金からAさんが100万円の満足を得ることになります。
 つまり簡単にいうと、物を借金のカタに入れるということなんですね。
 先ほどの例では、Bさんが借金を払えなかった場合の話をしましたが、もし、Bさんが借金を払った場合には抵当権も消滅します。これを抵当権の附従性といいます。つまり、もともと抵当権は借金の担保のために付けられたものなので、借金がなくなればそれに付随して抵当権もなくなるわけですね。
 民法の定める担保物権には4種類あるのですが、抵当権と並んで重要なのが質権です。これは、例えば借金の担保のために債務者(お金を借りた人)が持っている宝石を質入れするというものです。
 抵当権との違いとしては、まず設定できる物の違いがあげられます。抵当権は不動産にしか付けられないのに対し、質権は動産・不動産どちらにも付けられます。
 次に、担保物権を設定する際に物を債権者に引き渡すかどうかに違いがあります。質権は「質入れ」というくらいですから、債権者(お金を貸した人)への引渡が必要です。それに対して、抵当権の場合は債権者への引渡は不要です。借金した人は抵当権の付いた土地にそのまま住んだり、農地として耕すことができます。このように、抵当権は借金する側にとっても設定しやすいものですので、不動産を担保に入れる場合、もっともよく使われます。
 行政書士試験対策としては、やはり抵当権が最重要で、これについては基礎から応用までしっかり押さえる必要があります。ただ、その他の質権や留置権・先取特権(さきどりとっけん)もそれなりに問われますので、行政書士試験において今後出題が予想されるレベルまでは押さえる必要があります。

4.債権について

 次に債権についてお話ししましょう。債権とは、前述のように「物をよこせ」とか、「代金を払え」等の人に対する権利です。
 売買契約のような契約によって生じる場合もあれば、不法行為(例えば交通事故)に基づく損害賠償として生じる様な場合もあります。
 ここでは、まず売買契約に基づいて債権が生じた場合について考えてみましょう。

事例 : AさんがBさんに家屋を売却したが、その引渡前に家屋が全焼してしまった場合について考えてみましょう。

 AB間では、売買契約が結ばれているので、BはAに対して「家屋を引き渡せ」という債権を持っていることになります。ここで、無事に引き渡せれば問題ないのですが、問題はこの事例のように引き渡さなかった場合の処理です。
 この場合、家屋は全焼してしまっていますので、家屋引渡債権は実行できなくなっています。このような状態のことを履行不能といいます。そしてこのような場合、民法は、@Aのせいで全焼したのか、A落雷などの不可抗力で全焼したのかで場合を分けます。

@Aのせいで全焼した場合
 この場合のことを難しい言葉で言うと、Aの帰責性(落ち度)によって履行不能になった、といいます。このような、帰責性に基づく履行不能の場合を債務不履行といいます。
 このようにAの債務不履行の場合、Bは損害賠償請求(415条)と契約の解除(543条)ができることになります。つまり、Bは家屋の引渡を受けられなかったことで生じた損害の賠償を請求でき、また、契約を最初からなかったことにできます(解除)。解除があると、契約により渡したものがあれば取り戻しができます。
 この場合はAが一方的に悪いので、Aに損害賠償責任を負わせればよく、その意味では処理は簡単です。

A落雷など不可抗力で全焼した場合
 この場合はAの帰責性がありませんので債務不履行の問題ではありません。この場合、AとBはどちらも悪くないので、結局全焼のリスクをAとBのどちらが負担するのかという危険負担の問題となります。具体的には、全焼したにもかかわらず、Bは代金を支払わなくてはいけないのかという問題です。
 そして、Bが代金を払わなくてはいけない場合を債権者主義(534条)、Bが代金を払わなくて良い場合を債務者主義(536条)といいます。これはどういうネーミングかというと、全焼した物の引渡債権を基準に、その債権についての債権者(B)がリスクを負う場合を債権者主義、債務者(A)がリスクを負う場合を債務者主義と呼ぶわけです。
 民法は、危険負担の原則としては債務者主義(536条)を採用しています。常識的に考えても、物がなくなってしまったのに、代金を払わなくてはいけないというのはちょっとおかしいですよね。
 しかし、特定物の取引については債権者主義が採用されています(534条)。特定物とは、当事者が物の個性に着目した物、平たく言うと「この物を買う」と特定の物を指したものをいいます。これに対して不特定物とは、種類と量だけで指定されたものをいいます。たとえば、○○社の△△△テレビ1台という場合です。○○社の△△△というテレビであればどれでも良いのですね。
 先の事例では、家屋が問題となっていますが、これは契約当事者が物の個性に着目した物と言えるので特定物です。とすれば、債権者主義(534条)が適用され、Bさんは代金を払わなくてはいけないのです。これはBさんに酷な結論といわれていますが、条文上はこうなっているのです。

5.不法行為について

 以上みてきたように債権は主に契約に伴って生じるものですが、契約によらずに債権が生じる場合もあるのです。その代表格が不法行為に基づく損害賠償請求権です。
 たとえば、AがBを自動車ではねて怪我をさせてしまった場合、Aに故意・過失(わざと、あるいは不注意でという意味)があれば、AさんはBさんに生じた損害(治療費、精神的損害など)を賠償しなければなりません。
 なお、この場合に被害者Bの方にも落ち度があった場合(例えばBがよそ見をしていたとか車道を歩いていたなど)には、損害賠償の額が減額されます。これを過失相殺といいます。

 債権は複雑な話も多く、行政書士試験受験生が苦しむことが多いところです。こうした部分はやはり基礎理論からしっかり学んで、その上で行政書士試験の難化傾向に対応できる理解・知識を身につけることが重要になります。ここでお話ししたことは行政書士試験対策のごく基本となりますが、こうしたことがわかっていないまま表面的な知識を身につけてしまっている人も多いですから、注意しましょう。


 以上民法のおおよそのフレームをみてきました。行政書士試験対策としては、さらに細かい点をたくさん勉強しなくてはいけませんが、まずは民法のだいたいのイメージをもってください。行政書士試験科目のなかでも特に地道な学習が実を結ぶ科目ですので、ぜひがんばってください。


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