「憲法」入門ガイダンス

行政書士試験のための「憲法」入門ガイダンス

 行政書士試験において、憲法は比較的易しい科目とされてきました。しかし、近時は基礎知識を前提に行政書士試験の現場で推論させる問題や、難しい理論について少し深く突っ込んだ出題が見られるようになってきました。
 行政書士試験突破塾では、こうしたより難易度の高い事項までしっかり教える教材づくりを進めています。しかし、こうした難しい問題に対応するには、その前提として、基礎理論に関する徹底的な理解が必要になります。理解が不十分なまま付け焼き刃で知識を暗記しても、最近の行政書士試験には通用しません。ここでは、行政書士試験の「憲法」対策としてごく基本的な事項について、ガイダンスを行っていきます。

一、憲法とは

 憲法とは、国家の基本法です。もう少し言うなら、国家とわれわれ個人の関係を定めた基本法です。

二、日本国憲法の基本原理

 では日本国憲法において、国家と個人の関係はどう定められているのでしょうか。
 これについて日本国憲法は、究極原理として「個人の尊厳」を定めています(13条)。これは、国家が政治を行う上で、ひとりひとりの個人を最も大切なものとして扱わなければならないとする原理です。
 そして、個人が尊重されるためには、国から特定の思想を強制されたり、不当にビジネスを制限されたり、理不尽な刑罰を科されるようなことがあってはなりません。つまり、個人が国の干渉から自由である必要があります。そこで、憲法は詳しい人権規定(14条以下)をおいているのです。
 また、「個人の尊厳」と人権規定が、絵に描いた餅にならないように、個人を尊重するための政治の仕組みを定めたのが、統治機構の部分です(41条以下)。
 行政書士試験においては、この人権と統治の部分からそれぞれ出題されます。試験対策としては、条文だけでなく判例も正確に押さえていく必要がありますが、このガイダンスではごく基本を説明していきます。

三、人権規定について

 人権とは、人である以上当然に認められる権利です。人間である以上誰でも認められる当然の権利のことです。例えば、表現の自由や信教の自由、営業の自由、生存権などです。

1.人権総論

 個々の人権を見る前に、人権全てに共通する話をしておきましょう。具体的には、①人権は誰に保障されるのか、②人権はいかなる場面で保障されるのか、③人権はどの程度保障されるのか、といった問題があります。

①人権は誰に保障されるのか、について
 人権が日本国民に保障されることは言うまでもありません。しかし、判例(最高裁判所の裁判例のこと)は、さらに、日本にいる外国人や、会社などの法人にも、できるだけ人権を保障すべきとします。
 外国人も人間である以上、人権は認められるべきですし、法人についても、実際の必要性から人権保障が認められます(マスコミの表現の自由や、宗教法人の信教の自由が認められないと困りますよね)。ただし、人権の性質上、外国人や法人には保障しづらいものもありますから、日本国民と全く同様に人権が保障されるわけではありません。こうした点に関する判例は、しっかり学ぶ必要があります。

②人権はいかなる場面で保障されるのか、について
 人権は、もともと国家対個人の場面で適用されるものです。しかし、今日では、会社などの私人による人権侵害が目立ってきています(例えば、会社による男女差別など)。
 そこで、人権規定を私人対私人の場面でも適用できないかが問題になります(人権の私人間適用の問題)。判例は、直接には民法などの規定を適用しながら、人権規定の趣旨を間接的に適用するという手法を使って、解決しています(間接適用説)。

③人権はどの程度保障されるのか、について
 人権は大切なものですが、絶対無制約なものではありません。憲法も、「公共の福祉」の観点からの人権制約を認めています(13条、22条など)。
 では、「公共の福祉」による制約とは、どういう意味なのでしょう。これを広く考えすぎると、国民の人権を制限することが広く認められ、自由がなくなってしまいます。そこで、「公共の福祉」による人権制限の意味をはっきりさせる必要があります。
 一般的に、「公共の福祉」による制限とは、他人の人権とのぶつかり合いを調整するための制限のことと解されています。たとえば、飲食店には営業の自由がありますが、営業の自由が制限されない(どんな営業をやってもよい)とすると、多少腐ったものをお客に出してもかまわないことになってしまいます。これではお客さんの人権(ここでは生命・安全)が侵害されてしまいます。そこで、お客さんの人権を守るために、食品衛生法という法律により飲食店の営業の自由を制限するのです。これが、公共の福祉による制限の具体例です。
 なお、経済的自由権に限って、弱者保護ための制限も「公共の福祉」による制限として認められています。

2.人権各論

 次に、人権各論です。ここでは、個々の人権についてひとつひとつ見ていくことになるのですが、今回は「入門ガイダンス」ですので、試験対策としても最も重要である「表現の自由(21条)」だけを簡単にみておきましょう。
 表現の自由は、自分の考えを自由に言える権利です。人権のなかでも特に重要度の高いものとされています。
 ただ、マスコミが発達した現代社会においては、一般の国民が自分の意見を表明しても、マスコミの報道ほどの影響力を持つことはあまりありません。ですから、国民に「表現する自由」だけを保障しても、十分ではありません。そこで、一般の国民には「表現を受け取る自由(知る権利)」も保障すべきだ、という議論がでてきます。一般の国民は情報を発信する力が十分でないので、その代わりに、自由に情報を受け取ることを保障すべきだ、というわけです。判例も、知る権利は21条で保障された人権であると認めています。
 また、21条2項は検閲を禁止します。検閲とは、簡単にいうと、行政権が主体となって、表現物を事前に審査し、不適当と認めるものの発表を禁止することです。例えば、政府が特定の思想を禁止するために、その思想が載っている本の発行を禁止するような措置のことです。これは、思想弾圧の手段としては大変強力なものですから、検閲は絶対的に禁止(例外なく違憲)と解されています。また、主体が行政権とされているのは、歴史的にみて、こうした思想弾圧が行政権(大臣や知事など)によってなされてきたからです。

四、統治機構について

 では、次に統治機構についてお話ししましょう。日本国憲法は個人の尊厳を守るために、詳細な人権規定を置くとともに、統治機構について具体的に規定しています。国会・内閣・裁判所の順にみていきましょう。

1.国会

 国会は立法機関であり、主に法律の制定(立法)を行っています。憲法は、国会が「唯一の立法機関」であると定めていますから(41条)、原則として国会だけが法律を制定できることになります。その理由は、国会が、選挙で選ばれた国民代表からなる機関であるからです。つまり、法律は、税や刑罰を定めるなど、国民の人権を制限することが多いので、行き過ぎた人権制限をできるだけ防ぐために、国民の意見を反映した国民代表機関がつくることにしたわけです。
 憲法上、国会は衆議院と参議院からなるとされています(二院制)。では、衆参どちらが上なのかというと、衆議院の方が上の存在とされています(衆議院の優越)。ですから、衆議院と参議院の決議が食い違った場合には、衆議院の決議が優先するとされています。

2.内閣

 内閣は行政権を行います(65条)。行政権とは、法律を執行すること(一人ひとりの個人に法律を適用していくこと)です。例えば、所得税法という法律に基づいて具体的に一人ひとりの国民から所得税を徴収したり、生活保護法に基づいて生活保護の支給をしたりすることです。これらの仕事は、内閣とその指揮下にある下級行政機関等が行います。
 憲法は、国会と内閣の関係について議院内閣制を採用しています。これは、国会(議院)が内閣をコントロールするという原理です。国民代表機関である国会が、内閣をコントロールすることで、できるだけ国民の意見を反映した政治をしてもらおうという趣旨です。ここから、内閣総理大臣は国会議員のなかから選ぶ(67条)とか、国務大臣の過半数は国会議員のなかから選ぶ(68条)といった規定がでてきます。

3.裁判所

 裁判所は、司法権(裁判をする権限)を行使します。
 裁判所は、歴史的にみて、議会や国王に干渉されてきました(例えば国王に都合の良い判決を書かされるなど)。そこで、憲法は、こうした干渉を受けないように、司法権については特に高い独立性を要求しています(司法権の独立)。ここから、裁判官の高い身分保障がでてきます。例えば、裁判官はその良心に従い独立して職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される(76条3項)とか、裁判官の報酬は減額できない(79条6項・80条2項)といった規定が置かれています。
 また、裁判所には違憲審査権(81条)が与えられており、法律や行政処分が憲法(特に人権規定)に違反している場合には、違憲判決を出して法律などの効力を否定することができます。これは、人権を守るためのもっとも直接かつ強力な手段です。

4.財政

 財政とは、国家の収入と支出の話です。皆さんの家でいうと家計にあたります。そして収入は主に租税、支出は予算を編成してなされます。この財政は本来は行政権(内閣)の仕事です。税を集めるのも、予算を作成するのも行政機関が中心になっていますよね。ただ、財政は、国民の生活に密接に関係していますので、国民代表機関である国会の議決が必要とされています。

 以上憲法の全体像をみてきました。行政書士試験対策としては、早く基礎を固めて、より高度な知識を身につける必要があります。最近の行政書士試験では、基本的な知識を土台としつつ、試験の現場で応用力を試すような、いわゆる現場思考型の問題も増えています。こうした問題を解くためには、基礎理論から応用までの知識が、理解に基づいてしっかり身に付いていることが必要となります。